「歯ぎしり」の回数は関係ない?睡眠の質を左右する意外な真実:最新研究からわかったこと

睡眠中のジャスミン
「どれだけ多く」より「どれだけ長く」—歯ぎしりが睡眠を断片化する本当の理由
1. 導入:朝の目覚めと「歯」の不思議な関係
「昨晩もしっかり寝たはずなのに、なぜか疲れが取れていない」「朝起きると顎が重だるく、顔の筋肉に痛みを感じる(顔面筋痛)」、あるいは「起きた瞬間に頭が重い(モーニング・ヘッドエイク)」。そんな経験はありませんか?
実は、私たちの「眠りの質」と「歯科的な問題」には、私たちが想像する以上に深い関係があることがわかってきました。特に、寝ている間の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)は、単に歯を削るだけでなく、日中のパフォーマンスや心身の健康にまで深い影を落とします。
これまでの歯科治療の現場では、歯ぎしりの「回数」や「強さ」が注目されてきました。しかし、2018年に発表された最新の研究(Neu et al. 2018)は、これまでの常識を覆す意外な事実を明らかにしています。
2. 意外な事実1:睡眠の「見た目」は正常でも、中身はボロボロ?
睡眠時ブラキシズム(SB)を持つ人と健康な人の睡眠を詳しく分析すると、意外な共通点が見つかりました。全体の睡眠時間や、レム睡眠・ノンレム睡眠の割合といった「睡眠構造(アーキテクチャ)」自体には、両者の間に大きな差は認められなかったのです。
しかし、睡眠の「中身」を精査すると、決定的な違いが浮かび上がりました。
- 睡眠維持の困難と中途覚醒: SB群は健康な人に比べ、寝付いた後に目が覚めてしまう時間(WASO:中途覚醒時間)が有意に長く、健康な人の33.7分に対して、SB群は66.5分と約2倍に達していました。
- 脳が休めない「微小覚醒」: 睡眠中に脳がわずかに覚醒する「マイクロ・アローザル(微小覚醒)」が頻繁に起こり、睡眠が細切れになる「睡眠の分断(フラグメンテーション)」が起きていたのです。
【専門家による分析】 なぜこの状態が厄介なのでしょうか。それは、睡眠の「長さ」や「ステージのバランス」といった外見上のデータは正常範囲に収まってしまうため、患者さん自身が「睡眠そのものの異常」に気づきにくいからです。しかし実際には、微小覚醒によって脳は休息を阻害されており、これが「しっかり寝たはずなのに辛い」という主観的な不調の正体となっています。
3. 意外な事実2:重要なのは「回数」ではなく「合計時間」だった
この研究の最も画期的な発見は、睡眠の満足度を左右する指標が「頻度」ではなかったという点です。睡眠の質を悪化させていたのは、一晩に何回歯ぎしりをしたか(イベント指数)ではなく、**「一晩に合計で何秒間、歯を食いしばっていたか(累積持続時間)」**でした。
専門用語では、歯ぎしりは「RMMA(リズム性咀嚼筋活動)」と呼ばれ、カチカチと噛み合わせる「位相性(phasic)」と、ギューッと強く噛み締める「持続性(tonic)」の両方を含みます。本研究では、このタイプに関わらず、合計の「時間の長さ」が長ければ長いほど、主観的な睡眠の質(PSQIスコア)が著しく低下することが証明されました。
“Patients presented with higher levels of daytime fatigue and sleepiness… which are related to the duration of bruxism occurrence rather than to its frequency.” (Neu et al. 2018) (睡眠時ブラキシズムの患者は、日中の疲労感や眠気のレベルが高い。これらは、歯ぎしりの発生頻度よりも、むしろその持続時間に関係している。)
特筆すべきは、本研究に参加したSB群の全員が、臨床的な睡眠障害の閾値である「PSQIスコア > 5」を超えていたという事実です。
【専門家による分析】 歯科検診では「歯の削れ(咬耗)」の程度から歯ぎしりを判断することが多いですが、実は「歯の削れ」と「睡眠の質」の間にはギャップがあります。短く強い食いしばり(歯が削れやすい)よりも、弱くてもダラダラと続く長い食いしばりの方が、脳を覚醒させ続け、睡眠の質を奪っている可能性があるのです。
4. 意外な事実3:歯ぎしりは「心」と「日中のエネルギー」を削っている
歯ぎしりの影響は、口の中だけに留まりません。研究データは、SBが心身に及ぼす「負の蓄積」を鮮明に映し出しています。
- 「休息への欲求」の増大: 専門的な疲労尺度(Brugmann Fatigue Scale)を用いた調査では、SB患者は単なる疲れだけでなく、精神的・肉体的な**「休息への欲求(rest propensity)」**が有意に高まっていました。
- メンタルヘルスへの予兆: 抑うつ症状(HAD-D)のスコアにおいても、健康な人に比べて有意に高い値を示しました。臨床的な診断閾値(11点)には至らないものの、SBが感情的な健康を蝕む「予兆」となっている可能性を示唆しています。
【専門家による分析】 歯ぎしりを放置することは、単に「歯を痛める」だけでなく、日中の集中力やエネルギー、さらには心の安定までを少しずつ削り取っていることと同義です。朝の顎の違和感やだるさは、脳が「これ以上は活動できない、休ませてほしい」とSOSを出しているサインなのです。
5. まとめ:あなたの「睡眠の質」を守るために
今回の研究で明らかになったのは、歯ぎしりが睡眠の「構造」は保ちつつも、微細な分断を繰り返すことで「質」を確実に悪化させているという事実です。そして、その悪影響を決定づけるのは、回数ではなく「合計時間」でした。
これからの歯科相談は、「歯が削れるのを防ぐ」という従来の視点を超えていく必要があります。私たちは、あなたの睡眠をマネジメントし、明日を元気に過ごすための「睡眠のパートナー」として、歯科を活用してほしいと考えています。
あなたの朝の疲れ、もしかしたら「歯ぎしりの長さ」が原因かもしれません。
今夜、自分の眠りを少しだけ意識してみませんか? その一歩が、あなたの人生の質を大きく変えるかもしれません。
Reference
Neu, D., Baniasadi, N., Newell, J., Styczen, D., Glineur, R., & Mairesse, O. (2018). Effect of sleep bruxism duration on perceived sleep quality in middle-aged subjects. European Journal of Oral Sciences, 126(5), 411-416
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*監修者
東京国際歯科 六本木 院長 宮下 裕志






